万が一にそなえる!
「万が一にそなえる」というテーマでお話をします。
考えすぎ?そんな意見もあると当然思いますが、転ばぬ先の杖をどの程度まで考えるかは人それぞれです。
依頼者Aさんは60代、まだまだお元気ですが、最近自分や家族の将来のことが気になってきました。
Aさんは、一人っ子、一度も結婚していません。
現在は80代後半の父親Bと二人暮らし。
元々一人で生活していたのですが、
数年前に母親が他界、高齢の父を看るために実家に戻ってきました。
Aさんが最近、気になりだしたことは、万が一父Bより先に自分が亡くなった場合のことです。
万が一父Bより先に自分が亡くなった場合のこと
通常であれば年長者である親が先に旅立ちます。
しかし、物事は全て順番どおりにはいきません。
子供を先に看取るというのは親にとっては大変辛いものですが、
そんなケースも少なからずあります。
可能性は万が一、いや10万に一つかもしれません。
従って、遺言書等を作成しても役に立たない可能性の方が大きいと思います。
火災保険に入っていて火事にならないのと同様です。
それでも、起こった時のリスクはとても大きいと思います。
何もしなくてよいケースは、父Bさんの法定相続人(兄弟姉妹、甥姪)等が近くにいて、
なんとかしてくれると判断している場合です。
ところが、皆さん遠くに住んでいます。
Aさん家族との関係もそれぞれ異なります。
そこで、Aさんは、もしものことに備えて「遺言書」を作成することにしました。
負担付き遺贈
内容は父Bさんの面倒をみることを条件に、自分の財産の中から一定の金額を信頼できる従妹Cに遺贈するというものです。
負担付き遺贈といいます。
負担付遺贈とは、遺贈者が受遺者に対して、財産をあげる見返りに、受遺者に一定の義務を負担してもらう遺贈のことです。
今回のように「年老いた父の介護を見ることを条件に財産をあげる」という内容のほか、
「住宅ローンを引き受ける代わりに家を与える」
「障害を抱えた子供の面倒を見る条件で財産をあげる」などが考えられます。
なお、受遺者(今回の場合の従妹C)は遺贈の目的の価値を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行しなければならない
とされています
民法1002条
負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
つまり、もらう財産の価値以上の義務を負う必要がないということになります。
受遺者(従妹C)は、義務を負担するのが嫌であれば、遺贈を放棄することができるので、負担付遺贈をする場合には、AさんはCさんと事前に十分話し合っておくことが必要です。
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、読んで字のごとく遺言の内容を執行(実現)する人です。
つまり、遺言者が死んだ後に遺言者の意思を実現して見届けてくれる人です。
そこで今回の負担付遺贈の場合、受遺者Cが、ちゃんと負担を実行するかを見守るために、遺言執
行者を指定しておくことにしました。
負担付遺贈を受けた人が義務を履行しないときは、相続人または遺言執行者は、相当の期間を定め
て履行を催告できます。
なお、それでも履行がないときは、遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます。
とりあえず、自筆証書遺言で
Aさんは、一人っ子、未婚なので法定相続人はいません。
従って、Aさん自身は父Bが存命であろうとなかろうと「遺言書」の作成は必須です。
そこで、今回は、万が一父Bより先に自分が亡くなった場合に備えて、「とりあえず自筆証書遺言」
を作成することにしました。
父Bが先に亡くなった後は書き換える予定です。
この他、Aさんや父Bさんが講じなければならない対策は多くあります。
身体能力が低下した際の見守り、財産管理、判断能力が欠如した場合の任意後見、死後の事務委任
等です。
すべてを、一度で行えば良いのですが、100点満点の対策を講じることは、とても難しいと思い
ますし、なんといっても時間がかかります。
一つ一つ起こりうるリスクを検討しながら、それに見合った対策を講じていくことが大切です。