遺言~バランスと事後の展開を考える~

遺言者は80代のご婦人でした。
数年前に夫を亡くしてからは一人暮しの生活。

子供はいません。 数年前から体調を壊し、施設に入所していました。
施設への入所手続きや財産管理は、家族のように面倒を看てきた近所のご婦人が行っていました。

また、この施設の皆さんは本当に親身に彼女に接しています。

このご婦人の相続人はご兄弟のみ、しかし何十年も前から疎遠な状態になっています。
戸籍上は兄弟なのですが実際は他人同様の関係なわけです。

バランスの話図1

財産は預貯金が数百万、もしものことがあればこの財産は他人同様の兄弟のものになるわけです。

そこで、このご婦人は、この施設に全財産を遺贈しようと遺言をすることにしました。

遺言という行為は遺言者の一方的な意思表示です。

兄弟姉妹には遺留分が無いので「全ての財産を法人に」と書けばそのとおりになります。

しかし、あえて私は一定の割合をご兄弟に相続させたらと提案しました。

しばらく考えた後、このご婦人は幼い頃に寝食をともにしたこの兄弟姉妹にも一定の割合を相続させるよう遺言をしました。

施設の方は、そんなご婦人の遺言のことは知りません。

もちろんそんなお金をあてにして、親切に接しているわけではないのです。
ただ、兄弟姉妹の方がもう少しこのご婦人の事を気にかけてほしい、そんな想いはあるようです。

2年後、このご婦人は亡くなります。

葬儀の喪主はかろうじてご兄弟が行いましたが、 納骨や遺品整理やその他手続は施設の方が全て行いました。

私は遺言に従い預貯金の清算と配分のお手伝いをしました。

もし、全ての財産を施設に遺贈するとしていたらどうだったでしょうか?

「なんかおかしい」事情を知らない兄弟姉妹が言いだすおそれがあります。

それを受け施設の方達とも険悪なムードになったかもしれません。

このケースは、一定のバランスを取ったことが功を奏する結果になりました。

「ありがとうございました、本当にお世話になりました」 ご兄弟から施設への言葉でした。

遺言は遺言者の意思が一番大切です。

しかし、 場合によってはバランスを取ること、事後の展開を考えること、そんなことも大切です。

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hpず